[2015/06/22]

【第4回】逃げる女中さん

 「シャルリ・エブド」事件があって、間が開いてしまったが、もうしばらくサウジの女中さん事情を語りたい。
 もう何年も前の事になるが、うちのダンナさんが面白い本を見つけた!と喜んでいた。その本は子供向けであったので、一語一語ちゃんと理解できるように、難しい言葉には注がついて説明がされてあったそうだ。
 その本に「フィリピン人」という語が載っていた。その言葉にもちゃんと説明が書いてあるのを発見した彼は、興味津々読んで見ると、何とそこには、、フィリピン人とはすなわち、、、「女中である」と書いてあったそうな。
 この説明を読んだ子供達は、町中を歩くフィリピン人のおじさんを見て、「あっ、女中だ」と思う事必至。男も子供もついでに大統領もいるフィリピン人を「女中」と一括処理するには、ちょっと無理を感じるのだが、いいのかなあ...。

●「インドネシア時代」から「アフリカ時代」へ
 サウジ国内においては、フィリピン人ではなく「女中=インドネシア人」という時期がかなり長かった。どこの家に遊びに行っても、インドネシア人の女中さんがいたものだ。彼女達は性格も明るく、言われた事は「ハイハイ」と何でもやってくれるので、大変評判が良かった。
 我が家にもインドネシアの女中さんがいた事があったが、とてもいい人であった。今でもたまに、また会いたいなあ、と思うほどである。
 しかし、彼女達とて人間だ。欠点はある。私的見解ではあるが、彼女達は何でも「ハイハイ」とやってしまう為、サウジ側のファミリーを頭にのせてしまうのである。そして知らず知らずのうちに疲れとストレスを貯め、気づいた時にはパンパン状態。そのうちに破裂して、アパートのから飛び降りたり、前述のように子供を殺してしまったりする。
 あまりにも事件や事故が続いたため、とうとうサウジ政府はインドネシアからの女中さんを基本的に受け入れなくなってしまった。もしかしたら、インドネシア政府側が「 もううちの 国民を虐めるのはやめてくれ」と要請したののかもしれないが。
 ここに、女中=インドネシア人という時代の幕はあっけなく下りてしまったのである。 

 インドネシア人に代わって、台頭して来ているのがアフリカ勢。特にエチオピアからの女中さんが一時期ものすごく多くなった時期があった。しかしダンナによると、インドネシア人女中の時代以前はアフリカ人の女中が普通であったらしいから、ただ単に昔に戻ったと言う所だろうか。
 インドネシア人を女中として雇う事が出来なくなってしまって、仕方なく我が家も他のサウジファミリー同様、エチオピアからの女中さんを雇った事がある。
 うちに来たその女中さんを見たり、他の家の事情を聞いたりして思うに、彼女達はインドネシア人のように言いたいことも言わず、パンパンにはち切れるまでは働かない。言いたい事は言うし、言っても何も改善されぬようであればーー逃げる。
 もちろん、インドネシア人もスリランカ人も耐えられなくなれば逃げ出す。しかしエチオピア人はもっとパパーッと居なくなり、サウジファミリーを仰天させる。
 実際彼女達は、サウジアラビアに来る前から、逃げるつもりで来ているのだから「早い」だなんてレベルじゃない。超人的な素早さだ。 

20150220逃げる.jpg


●逃亡に「失敗」も「成功」のもと?
 さて逃げるとどうなるのか。そして、どうしてサウジに来る前から逃げるつもりでいるのか。
これは逃げる事に成功するタイプと、そして失敗するタイプでわけて考えると、とても分かり易い。
 まずは逃げる事に失敗するとどうなるのか。
 逃げた女中が、一人でウロウロ街中を歩いていると、遅かれ早かれポリスがやって来る。ポリスたちは経験上、どういった感じの人が逃げ出して来た女中かどうか、瞬間的に分かるらしい。今の所私は間違えられた経験がないのが......。
 「何やってるんだ、こんな所で?あんた女中でしょ。逃げて来たんでしょ?」と(多分)聞かれパトカーに乗せられる。警察についた女中は、雇い主が来るまで「牢屋」とまではいかないが、逃げた女中専用の部屋に入れられ雇用者が面会にくるのを待つ。面会に来た雇用者が下手に出て「今回逃げた事は許してあげるから、戻って来てはくれないか?」とお願いし、女中側が「あっそう? じゃあ」と両者の折り合いがつけば、それはそれでいい。しかし女中が断固として帰りたがらなければ、これはもう仕方ない。次のステップ、出国準備に進まねばならない。 
 入国ビザだけでなく、こちらには出国ビザというのがあり、これがないと出国する事が出来ないのだが、これを得る為には病院へ行って、健康診断を受けねばならない。この健康診断の第一の目的は女中が妊娠していないかどうかを見るため、のようだ。可哀そうに、サウジに来て妊娠してしまう女中さんもいるのだから、ひどい話しである。

 こうして逃げる事に「失敗」するわけだが、虐待にあっている女中さんにとっては救いであって、決して失敗ではない。しかしそうでない女中さん、つまり出国を望まないで、ずっとサウジに居たい、という女中さんにとっては大失敗なケースである。
 雇用者側にとっても契約期間の2年間をちゃんと働いてくれれば、問題はないが、1年そこそこで逃げられては、最初の手付金に始まり、帰りの航空運賃、出国ビザ代まで全て雇用者側の負担なのだから、大変だ。
 限られた給料の中から女中を雇う為の出費を捻出する事が、そんなに容易でない家族はたくさんいるし、それプラス女中がどうしても必要だ!という家族だってたくさんいるわけで...。
 はっきり言わせてもらえば、「あなた達、そんなに簡単に逃げないで!」といった感じ。 
 どんなに待遇を良くしてあげても、逃げるつもりでいる女中を思いとどまらせる事はホント難しい。実は、我が家の女中も、、、逃げ出しました。色々と文句の多かった彼女に対し、私達は譲歩に譲歩をした、にも関わらず。逃げていった。あーっ、悔しいー。
 当時、一番下の子はまだまだ1歳になるかならないかで手のかかる時期であったため、私的には女中さんがいてくれるというのは、本当に有り難いことであったのだが。

 一体どうして、女中たちは逃げようとするのか。これは逃げに「成功した」タイプがどんなものであるのかを知れば、大納得。これは次回に。