[2015/01/07]

【第2回】女中さんと悲劇的な事件

 さて、前述のようにサウジアラビアで女中さんを雇う場合、最初の3ヶ月間は試用期間という事で、どうしても気にいらなければ、お帰りいただいて、違う女中さんを連れて来てもらう事は可能。がしかし、女中さん側もそこは心得たもので、「せっかく来られたのに、そんなにさっさと帰されてはたまらぬ」と最初の3ヶ月は大人しく、せっせと働く。そしてその期間が過ぎると、だんだんと主張をし始めるようになってくる。
「朝ご飯はこれだけじゃ足りない」、「そんな仕事はやりたくない」といった具合に。

 彼女達の仕事の量や内容は、家庭によって随分と違う。我が家では原則、掃除、アイロンがけ、それに野菜を洗うこと。おっと、それから忘れていけないのが皿洗い。うちは一般的サウジファミリーと比べると洗うお皿の数が半端でないらしい。他の家で働いた経験のある女中さんは必ず言う。サウジアラビアでは、大きなお皿一枚を家族みんなで囲んで食べたりする事が多いので、洗う皿の量は微々たるもの。しかし和食であったら一家で皿一枚なんてあり得ない。うちではお皿を何枚も何枚も使って、これでもかとばかり女中さんを苦しめる(笑)。
 しかし我が家の女中さんは料理は全くしなくていいし、子供の面倒もみなくていい。昼寝も2時間近く出来て、夜は9時には終わるようにしているのだから、私から見ればハッキリ言って羨ましいくらいだ。
 
 しかし、大抵の家ではそうはいかない。朝7時くらいに起きたら、夜寝るまでの間休みらしい休みはない。仕事も掃除だけではなく、料理もする、子供の面倒もみる、といった具合に多岐にわたる。小さい子供達と一緒に寝る女中さんだってたくさんいる。
 小さい子供というのは、夜中に起きて「やれお水だ、やれトイレだ」と結構面倒くさい。赤ちゃんであったら2?3時間ごとにミルクを飲ませねばならないのだから、これはもう大変。「やってられるか」とばかり女中さんに赤ちゃんを任せてしまうサウジマダムも、少数ではあるが、いる。これでは、女中さん夜中も働いているようなものだわね。

 こうやって子供の面倒を全て見させてしまうと、子供が女中さんべったりになってしまうケースも多い。その子供達の話すアラビア語が女中さんの話すアラビア語にそっくりになるそうだ、当たり前か(同じアラビア語とは言っても国によってかなる異なるのです)。
 私もよく「私がこの子の母親なのよ!」と言い切る女中さんを何度も見た。「奥様は何もしないから......」と困ったような、そしてちょっと嬉しそうな顔をする女中さん達。
 大変でも、その子供が可愛いと思える間はマーマーなんとかやっていけるのであるが、そうでない場合は、、悲劇が生まれる。

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 何年か前、新聞沙汰になった事件であるが、スリランカから来た若い女中さんに、生まれて間もない赤ちゃんを任せたサウジファミリーがいたそうな。その女中さんは女中になるのも初めてなら、ましてや赤ちゃんに触れるのも初めて。一体何をどうしたらいいのか分からず、結局彼女はその赤ちゃんを死なせてしまった。この事件はあくまでも事故で、彼女に殺意は全くなかったそうだが、何ともひどい話しではないか。どうして自分の大事な大事な赤ちゃんを人に任せる事が出来るのだろう。コツを教えてもらいたいくらいだ、マッタク。
 イスラム的には、子供を育てるのは女の大事な仕事。女中さんに掃除、料理等、全部を任せてしまっても構わないが、子供だけは任せてはいけない、と私は思う。
 地球が最後の日をむかえたあと、私達人間は全員神様のもとに招集される。そしてこの世で生きていた間に何をやっていたかを問われ、その行いによって天国か地獄に振り分けられる(最後の審判)。その時に聞かれる重要事項の一つが、自分の責任下にあったものをどう扱ったか。

 例えば一国の統治者は、自分の国民に何をしたか、どのように扱ったか、善い政策をとったかどうか(アラブ地域にたくさんいた独裁者の方々はこれをご存知なかったのですねえ。知っていたらもうちょっと良い統治者になっていただろうに)。一家の主は家族全員をどう扱ったか。正しい事をするよう勧めたか、公平に扱ったか、等など。
 そして一家の主婦は子供達にどう接し、何を教えたのか。掃除をしたか、料理をしたかといった事は、それほど重大な事ではない。もちろん家族の為にご飯を作ったり、家をキレイにする事は、善行としてちゃんと記録されているし、やった方が良いに決まっている。
 しかし現実には、働くサウジ女性の多くは女中に子供を任せて仕事に行ってしまう人がほとんど。
 そのために、またしても悲劇が起きてしまった。2012年も終りの頃、我が家から車でほんの10分位の家庭でオッソロしい事件が発生してしまった。

 先生をしていた奥様がいつものように一番下の女の子(当時3歳)を女中に預け、学校へ出かけた。いつもの時間に帰って来た奥様を、女中が何故かガンとして家に入れない。「これは何かあったな」と奥様は危険を感じ、急いでご主人に電話をした。ご主人は大慌てで家に向かったが、急ぎすぎて道中、交通事故を起こしてしまった。そしてぶつけた相手の車中にいた3人のうち、なんと2人も死なせてしまったのだ。
 待っても待っても帰って来ないご主人を待ちきれず、奥様は警察へ電話し、結局駆けつけた警察官によって家の中に入れたわけだが、中で待っていたのは、ナントナント身体から切り離された我が子の首。
 新聞の報道によれば、その女中はもう3年間もその家で働いていたそうだ。家の人達とも良好な関係を保っていたらしく、どうしてこんなことが起きたのか分からない、との事。
 しかし、何日かしてその女中さんがテレビのトーク番組に出て来て言うには、自分の携帯に「子供を殺せ、そうすれば帰れる」というメールが来たらしい。
 帰れる、、、つまり国に帰りたかったのね。ということは、良好な関係だなんて、嘘っぱちだったんじゃないだろうか。

 この事件では、女中への虐待があったかどうかは、知らないが、あまりにもひどい扱いを受けた為、子供を殺してしまったり、後述するが魔法をかけてしまうケースもある。実際に深刻な身体的虐待、性的虐待はとても多く、サウジアラビアで女中になるのはかなり大変だ。
 マー、女中に関する話題はつきることがなく、うちの義母に話させたら、一日中いろんな女中の話しをしてくれる。
 あーっ、恐ろし、恐ろし。