現在表示しているページの位置
『サバイバー』がジャパンタイムズで紹介されました

ニュース一覧

『サバイバー』がジャパンタイムズで紹介されました

[2016/09/10]

『サバイバー 池袋の路上から生還した人身取引被害者』(マルセーラ・ロアイサ)がジャパンタイムズ(2016年9月10日)で紹介されました。

ジャパンタイムズ2016年9月10日.jpg

【仮訳】
ジャパンタイムズ(2016年9月10日)

コロンビア女性が性的人身取引を詳細に
1990年代の日本の売買春の虚偽を赤裸々に語った一冊

1999年5月、コロンビア人のシングルマザーだったマルセーラ・ロアイサは、大きな夢を胸に日本に足を踏み入れた。日本行きを手配したブローカーは、彼女に日本ではダンサーとして働き、2~3年でコロンビアの家族が貧困から抜け出すのに十分なお金を稼げる、と伝えていた。

彼女はその言葉を信じ、すっかり騙されていた。
当時21歳だったマルセーラは、日本到着の数時間後には、他の外国人売春婦たちと肩を並べ、なすすべもなく東京、池袋の路上に立っていた。 皆、彼女と同じように、より良い生活を求めて来日し、ヤクザの手に落ちたのだ。

その日から、新人売春婦のマルセーラができたことといえば、唯一教えられた「ニマンエン(2万円)」という日本語を使って、お客になりそうな人に近づくことくらいだった。
彼女の2年間に渡る苦難は、彼女の体験記が日本語に訳されて、先月出版を迎えた「サバイバー」という本に綴られている。

日本語版の出版について、現在38歳になり、米国に暮らすマルセーラは「日本という美しい国にも過酷な現実が存在するということを、日本の人たちに知ってもらえることに感動しています」とメールインタビューに答えた。「人身売買者が女性たちを搾取して与えた被害は、彼女たちの心に、永遠に残る傷跡を残すのです」

警察の取り締まりにより、今では、非日本人のセックスワーカーは東京の道端からほぼいなくなった。
しかし、専門家によると、マルセーラの物語はそれから17年が経った今も、日本の性産業の一番裏側を蝕み続ける人身取引の現実を明確に示している。現在では、人身売買者が抑圧と誘惑を組み合わせた戦略の被害に遭う日本人女性も次第に増加している、と専門家は言う。

近年の改善は見られるものの、米国務省 2016年版 人身取引報告書によると、日本は未だに性的人身取引の「目的国、供給国、そして通過国」である。そして日本は先進7ヶ国(G7)のうち、唯一、人身取引被害者保護法の最低基準を満たしていない第2段階(Tier 2)に評価されている国でもある。

しかし、マルセーラが売春を強要されていた2000年代始めの状況は更に酷かった。
当時、日本には人身取引を禁止する法律がなかった。
タイ、フィリピン、コロンビアを含む国々から、女性たちはブローカーの手を借りて、偽造の身分証を入手し、しばしば、興業ビザを使って日本に押し寄せた。

到着後、マルセーラは、「マニージャ(訳注:スペイン語で手錠の意味、マネージャーとかけている)」と呼ばれるヤクザと組む管理人に、パスポートを取りあげられ、共同アパートに閉じこめられ、日本への渡航にかかった数百万円を返済するまで売春婦として働き続けるよう命じられるのだ。

マルセーラは500万円という「借金」を支払うために、売春婦やストリッパーとして働くことを強要されたと感じていた。そして2001年夏、東京のコロンビア大使館に逃げ込んだ。

「当時の状況は酷かったです」と人身取引のケースをよく知る大使館の職員は言う。彼は、メディアに発言する権限がないことから匿名を条件としてインタビューに答えた。「女性たちは動物のように扱われていたのです」

2005年に人身取引を処罰する政府提出法案が国会を通過したことで、状況は一変した。同時に、警察も対策を強化し、違法な娯楽産業を取り締まり、入国管理を強化した。

これらの取り締まりにより、人身取引の外国人被害者は急減した。警察省によると、一番多かった2005年には117件の外国人被害の報告があったが、2014年には12件になっている。

職員によると、2005年以降、コロンビア大使館は強要売春に関する苦情を受けていない。

神戸大学で社会学の教鞭を執り、日本の性産業について幅広く研究を行ってきた青山薫教授は、新しい法律により、今日では外国人女性の性奴隷化はほぼ見られなくなったと同意する。

その代わりに、ブローカーは、学生ビザや配偶者ビザなどを取得するのと引き替えに性風俗店で働かせる、といった更に巧妙なアプローチをするようになった。

「全体的な状況でいうと、以前よりは安全になり、搾取の度合いは減ってきてはいます」と青山教授は言う。

しかしながら、この見掛けの改善によって、マルセーラの手記が過去の話になるわけではない、と東京を中心に人身取引問題に取り組む非営利組織ライトハウスの広報担当、瀬川愛葵さんは言う。

警察省の統計によると、外国人被害者は減少しているものの、2014年の人身取引被害者24名のうち12名は日本人女性で、この10年で一番多い結果となった。瀬川さんは、日本人被害者の増加は日本における貧困の増加と所得格差によるもので、それらにより女性たちが社会的に疎外される傾向にあると言う。

瀬川さんによると、マルセーラの様に、被害者はよく、状況が手に負えなくなる前にどうして逃げ出さなかったのかと問われるのだという。

「しかし、実のところ、被害者たちにはその状況に陥る以外の道はないのです」

最近、強制的にAVに出演させられたというケースがメディアにも注目されるようになったが、それについても、とりわけ同じことが言える。

2015年、ライトハウスは同じような活動をするPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)とこのようなケース62件に対処した。今年は7月時点で既にその数を超えている。

安倍内閣でさえ、このような虐待は「女性に対する暴力」だと非難する答弁書を6月に閣議決定した。

通常、若い女性たちはスカウト役に近づかれ、おだて上げられて、自分が騙されてAV女優にさせられるとはつゆ知らず、テレビ出演やモデルになることを約束する契約書にサインをさせられるのだ。彼女たちが写った映像はインターネットで幅広くシェアされ、それを見た知り合いが自分だと分かってしまうのではないかという恐怖に、一生苛まされるのだ。

「人身取引の難しい点は、人身取引者が被害者を肉体的に傷つけることはほぼないこと」、すなわち逮捕を免れるということだと瀬川は言う。

その代わりに、「彼らは被害者の身分証明書のコピーをとり、指示に従わなければ、両親や学校に全て暴露すると脅すか、契約を違反して辞めようと言おうならば、膨大な違約金を請求すると言うのだ。時には甘い言葉を使い、誘惑し、切り離せない関係を築かせるのです」

マルセーラはこれに同意する。

「人身取引者は、自分の全てを知っていて、常に脅迫しているのです。私は、娘や家族の命や生活を危険にさらしたくなかったのです」

現在、彼女は「マルセーラ・ロアイサ・ファンデーション」という自身の非営利組織を運営し、人身取引についての啓蒙活動や、それによる被害者の支援を行っている。

マルセーラが日本を離れてから15年が経つが、未だトラウマに悩まされ続け、日本人男性の姿を見ると今でも萎縮してしまう。しかし、彼女は、強い使命感により動かされ、行動を起こしている。
マルセーラは言う。

「私の目標は現代の奴隷制をなくすことです」
【了】